佐藤琢磨、間もなくインディ500に参戦

2010.05.28(金)

news20100527.jpg 日本のルーキードライバーである佐藤琢磨は、新たな挑戦となるインディ500に期待を寄せている。5月末に開催されるこのレースは、おそらく彼のキャリアにとって最大のイベントとなるだろう。F1参戦中にはモナコGP、それに鈴鹿で開催される日本GPなど名だたるレースに出場してきた琢磨だが、インディ500のスケールの大きさは、それとは比べ物にならないと考えている。「インディ500はものすごいでしょうね」 仮住まいを構えたインディアナポリスで、琢磨はそう語った。「インディがどんなものかを知るため、去年はバンプデイを見に行ったので、多少はわかっているつもりですが、それでも決勝日は想像をはるかに超えてすごいのだろうと思っています」

「いまのところ、いちばん感動的で印象に残っているレースは、やはり鈴鹿ですね」と琢磨。「自分を応援してくれる素晴らしいファンの前でレースできることは本当に特別な体験ですが、それさえも、インディ500の大観衆にはかなわないかもしれませんね。グリッドに向かうときの気分は、ちょっと想像できないくらいです」

 だからといって琢磨が慌てふためいているわけではない。自分にのしかかるプレッシャーと上手く付き合う方法は、これまでの経験を通じて充分に身につけているからだ。「日本GPに、ただひとりの日本人ドライバーとして参戦することを考えてみてください」 琢磨はいつもの流暢な英語でそう語った。「日本全体の期待を一身に背負いながら、自分の仕事を成し遂げなければいけないのです。きっと、インディ500で感じるプレッシャーも問題なくやり過ごせると思いますよ。いずれにしても、もうすぐわかることです!」

 これまでに2010年IZODインディカー・レースシリーズの第5戦までを戦い終えた琢磨は、好成績と不本意な成績の両方を残してきた。いつも素晴らしいスピードを示すいっぽうで、レース結果は必ずしも満足のいくものではなかったからだ。「たくさんのことを学び、まったく新しい世界を理解しなければいけなかったので、シーズンの始まりは困難なものとなりました。ルーキーとしてインディカー・シリーズに参戦するのは容易なことではありません。なにしろ、マシーンを速く走らせるのは難しくて、僕自身もドライビング・スタイルを変えなければいけませんでしたし、ドライバーはいずれも強豪揃いだからです。けれども、マシーンに乗るたびに馴染んできているので、もうすぐいい結果を残せると期待しています」

 第5戦カンザス・スピードウェイは、琢磨自身にとってだけではなく、インディカーの専門家たちにとっても新鮮な驚きがあった。これまでオーバルコースを走った経験のない琢磨が、コースを走り出すや否や、経験豊富なライバルをインやアウトから次々とオーバーテイクし、コンスタントに順位を上げていったからである。この事実に、インディカーのパドックでは彼に惜しみない称賛の言葉が贈られ、琢磨自身はオーバル・レーシングについて学ぶとともに、周囲からは将来オーバルで大活躍すると期待されるようになった。結果的にフィニッシュは果たせなかったが、レース終盤まで5位争いを演じていたのだから、ルーキーとしては偉業といって差し支えないだろう。「とっても面白かったですよ」 レース後の琢磨はそう語った。「これまでも高速コーナーは大好きだったので、オーバルは僕のスタイルにぴったりあっているようです」 どうやら、これからインディ500に臨む琢磨にとっては、小さいながらも貴重な経験となったようだ。

 インディカー・シリーズでのルーキーイヤーを迎えるにあたって、モナコに残した愛すべき家族と離れ離れで暮らすなど、琢磨の周辺ではいくつかの変化が起きた。「家族と離れて暮らすのは辛いですよ。僕の子供はまだ小さいし、会えないのはとても寂しいけれど、いまは技術が進歩して、ウェブ・カムなどがありますからね。それでも、何週間も、何ヵ月も会えないのは寂しいものです」

 アメリカでの活動拠点を決めるまでの間、琢磨はインディアナポリスに暮らす友人の家で起居している。「とても恵まれていることに、インディの周辺には3組の友人が暮らしているんです。うち2組はF1ドライバーとして来たころに知り合った人たちで、もう1組はかつてチャンプカーチームを運営していた経験の持ち主なので、レースのことはとても詳しいですよ」

「つまり、素晴らしい人たちの輪がすでに出来上がっていたのです。仮にひとりでホテルに長逗留していたらと思うと、ぞっとしますよ。でも、周りに友達がいてくれるからリラックスできるし、一緒に食事も楽しめる。それに、レースのことがよくわかっている人と話ができるのは、ルーキーである僕にとって素晴らしいことですよ」 ご存じのとおり、琢磨は食べることが大好きだ。なにしろ、自分の趣味として自転車に乗ることと食べることのふたつを挙げているくらいなのだから! 「食べるのは大好きですよ! ステーキでもポークチョップでも、身体によくておいしいものなら何でも好きです。ここにはおいしいものがたくさんあるので最高ですね!」

 レースに専念できる環境のなか、琢磨はKVレーシング・テクノロジーと一致団結して戦うことに集中し、インディカー・シリーズで必要となる様々なことを学んでいる。「僕のエンジニアはとても優秀で、何かをずっと考えています。僕がクルマからフルに性能を引き出そうとするのを、彼はいつも手伝ってくれます。F1とは大きく異なるドライビング・フィロソフィーを求められることもありますが、僕はマシーンにのるたびに、様々なことを学んでいます」

 初めてのオーバルレースを経験した琢磨は、カンザスでの一戦にどのような印象を持っているのだろうか? 「本当に、とても興味深かったです。まず、スピードに慣れるには時間がかかりますが、それが僕にはものすごく面白かった。オーバルでは、勢いを保つことが何よりも大切で、一度スピードが落ちるとあっという間に順位を落とすことになります」 しかも、多くの人々から尊敬されているチームボスのジミー・ヴァッサーがピットウォールに控えているほか、カンザス・スピードウェイでは、アメリカが地元といっても過言ではないロジャー安川が自らの経験を惜しみなく琢磨に伝えた。「僕のスポッターとして、ロジャーは理想的です」 琢磨は強い調子でそう語った。「ジミーやロジャーがチームとひとつになってサポートしてくれることはとても大きな違いを生み出しているし、レース中は強い自信を抱くことにつながります。ロジャーはインディ500でもスポッターをやってくれるので、今度はお互いを信頼する面でも自信を持つ面でもより高いレベルに到達できると思います」

 琢磨が続ける。「インディのコースを走る前には、もちろん、家でiRacingのシミュレーターを試しましたよ。実際にインディカーで走ったときとはもちろん違いがありましたが、コースを走ったときの印象を知っておくには便利だし、実際のレースで必要となる『スピードを殺さない走り方』を学ぶにも役に立ちました」

「インディアナポリス・モーター・スポーツウェイは、直角コーナーを4つつなげただけのシンプルなコースだと思っている人が多いようです。けれども、230mph(370km/h)で走るとひとつひとつのコーナーに特徴が感じられるし、しかも超高速で走っているので微妙な違いが大きな差となって現れるものです」

 この速度域になると、本当にささいなミスが取り返しのつかない結果を招くこともあるが、iRacingのモータースポーツ・シミュレーション・サービスを使うことで、琢磨は全長2.5マイルのインディアナポリス・モーター・スピードウェイにいち早く慣れることができた。そして、本物のコクピットに乗り込むよりも前に、ほとんど全開のまま駆け抜ける4つの90度コーナーを体験していたのだ。

「他の多くのIZODインディカー・シリーズ・ドライバーがそうしているように、僕も実際にマシーンで走行する前に、iRacingを使ってコースをより深く理解しています」と琢磨。「iRacingオンライン・レーシング・シミュレーションがリアリズムにあふれていることには、本当に驚きました。それに、やっていてとても面白いんです!」

 インディアナポリス・モーター・スピードウェイは、インターネットベースのモータースポーツ・シミュレーション・サービスであるiRacingに登録された、全米を始めとする世界各国の合計40ヵ所に上るサーキットのひとつにすぎない。サービスの利用料は手頃で、世界中のモータースポーツファンやレーシングゲーム愛好家が練習走行を行なっているだけでなく、もしも希望するならば、あなたの友人やそのほかのファンとともにレースを楽しむこともできる。シミュレーターに登場するコースやマシーンは非常に精巧に再現されていて、プロのレーシングドライバーでさえ、自分がまだ行ったことのないサーキットを体験するのに使っているほどだ。

 iRacing.comは非常に精度の高いレーザー・スキャニング技術を使ってデータを取り込んでいるため、実際のコースとの誤差は2mm以内に抑えられている。そして、ちょっとしたバンプやカントの変化さえ、バーチャル上のコースに再現されているのである。

 iRacing.comのメンバーであるインディ500ドライバーとしては、ジャスティン・ウィルソン、ウィル・パワー、ライアン・ブリスコー、ライアン・ハンター−レイ、ヴィットール・メイラ、ダン・ウェルドン、トーマス・シェクター、ダニカ・パトリック、マイク・コンウェイ、ラファエル・マトス、A.J.フォイトⅣなどのほか、琢磨と同じIZODインディカー・シリーズ・ルーキーであるシモーナ・デ・シルヴェストロなどが挙げられる。また、www.iracing.com/jp/では日本語バージョンを楽しむこともできる。

 インディ500が開幕する直前、9月にもてぎで開催されるインディ・ジャパンの記者発表会に出席するため、琢磨は東京へと飛んだ。イベントはどんな様子だったのだろうか? 「もてぎのレースの発表会に出席して、インディカーが日本でどれくらい人気があるか、よくわかりました」と琢磨。「日本でのレースに出場するのは2007年の鈴鹿以来のことなので、自分にとっては大きな意味を持っています。日本人の皆さんが送ってくれる声援や熱狂ぶりは最高ですし、ホンダが開催する素晴らしいイベントに参加することになるので、いまは待ちきれない気分です」

「そのほか、東京の大きなショールームで行なわれたロータス・カーズのPR活動のお手伝いもしてきました。ロータスの新しいインディカー・プロジェクトに参加している僕にとっては、とても素敵なイベントでした。ホンダとロータスは、自動車市場ではまったく競合していないので、2社の相性はすごくいいようです。僕としては、ホンダとロータスの両方の仕事ができて本当に嬉しく思っています」

 先週、バンプデイでの困難な挑戦を乗り切った琢磨は予選通過を果たしたが、これについては別の機会にお話ししよう。いずれにせよ、31番グリッドから挑む決勝を、琢磨はいま楽しみにしているようだ。

「インディ500に出場する準備はすべて整いました。週末はとても忙しくなる予定ですが、きっと驚くようなことがたくさんあるだろうし、日本から応援にやってくるファンとそこで会えることも楽しみにしています。声援を送ってくださるファンの皆さんにはいつも感謝していますし、彼らと僕のパーソナルスポンサーの皆さんから一生懸命、応援してもらえるように、僕も頑張ります」

 琢磨がIZODインディカー・シリーズに参戦している様子は、www.takumasato.comでも紹介されている。